パナハッチェル。それと、何もない小さな湖沿いの村。

アティトラン湖は、富士山のような美しい左右対称の成層火山にいくつも囲まれた大きな湖である。その中心となるの街がパナハッチェルで、クリスマスの時期は当然の如くツーリストが多い。美しい風景と暖かな気候と安い物価は、リゾート好きの白人旅行者を惹きつけるだけの必要十分条件を満たしている。繁華街は夜遅くまで賑やかで、人通りが絶えることはない。そこから少し離れたところに、日本人が経営するEl Solという宿があり、すっかり風邪をこじらせた僕はしばらくそこに滞在した。清潔なベッドだけでなく、お湯をなみなみと張った湯船まで備えてあるので、快適過ぎてなかなか離れられない。その間に風邪をしっかり治すことができればよかったのだが、宿で知り合った旅行者と一緒に昼からビールに手が伸びるので、どうしようもなく体調管理は諦めた。何かを取ることで、何かを失う。そして、グアテマラの旨いビールはここでしか飲めないのだ。

眩しい太陽の光を受けてキラキラと輝くアティトラン湖をボーっと眺める以外に、この街でできることは少ない。必然的にパナハッチェルの外に足を向けることになる。湖の周囲には小さな村が点在していて、旅行者向けに開発されているものがあれば、そうでないものもある。僕が訪れたのは、パナハッチェルから乗合トラックの荷台に乗って10分程行ったところにあるサンタ・カタリーナという村だった。ここは山の急斜面に沿うように家々が広がっている他は、基本的には何もない。家と家の間を縫う細い坂道を登り、村の人たちと出会うというただそれだけだが、浮かれた旅行者が屯するリゾートよりもよっぽど楽しい。そういえば同じ宿にアティトラン湖を歩いて一周した強者がいて、そんな無茶を正直羨ましく思いながら、僕はゴホゴホと咳き込みつつもビールを飲むのだった。