2010年、イラン、アブヤーネ、その2。

アブヤーネ村の民族衣装は、花柄の可愛らしいヒジャーブ(女性が被る布)である。村の婆たちは皆この布を身にまとっているのですぐに判別可能だ。そして、アブヤーネ村の建物は土でできている。この地域独特のほんのりピンクがかった土は、小さな村を美しく演出する。

キャルキャス山脈の中腹に抱かれた小さな素朴な村、と言ってしまえば非常に簡単なのだが、残念ながら現実はそう甘くはない。下の写真を見ていただければわかる。村の一角でガイドの説明を聞いているイラン人達。そのほとんどがテヘランやイスファハーンという大都会から来た観光客だ。別に、彼らを悪く言うつもりはないが、雰囲気もへったくれもあったものではない。もちろん、いつも通り、陽気な彼らに話しかけられて一緒に写真を撮ったりして騒いでいた訳だが。特にこの日は木曜日。イスラムでは金曜が休みなので、まあ、つまりは週末であり、普段よりも余計に観光客が多かったらしい。アブヤーネホテルがほぼ満室だったのも頷ける。

そして、アブヤーネ村は一大観光地にふさわしく物価が凄まじく高い。婆の着るヒジャーブ、単なるボロボロの布だが、売りに出されれば日本円で1000円だ。それを買ってしまう私の嫁。非常に嘆かわしい。買って気付いたmade in Japan。まあ、ここまで来ると何を信じていいのかわからなくなる。何が「中世の街並みを残す静かな村」だ。ロンプラも地球の歩き方も、もうちょっとしっかり調べなさい。

ただ、こんな小さな村でも観光客が来るところと来ないところの2つに分けられる。村の中心を少し離れれば一気に人通りがなくなり、花柄のヒジャーブをまとった婆とたまにすれ違う程度。婆から声がかかり、その家に案内されれば、干したリンゴやクルミを買えと迫られるが、正直美味しいので構わない。

そして、山側に抜けて、少し斜面を登れば、村全体が見渡せるポイントに辿りつく。その後ろには、ひたすらに草原が続くだけ。この解放感はなかなか味わえるものではない。

日が沈めば、一気に人通りがなくなる。アブヤーネホテルで晩飯というのも芸がないので、昼間みかけた村のはずれにあった小さな食堂へ向かう。残念ながらケバブは品切れとのことだったが、煮込み料理のディージーは素朴な味で旨い。店のご夫婦はほとんど英語はしゃべれないのだが、お茶をご馳走になってしまい、ペルシャ語会話帳を駆使してなんとかコミュニケーションを試みる。今日はたまたま木曜日だったから人が多かったが、それ以外は全くだそうだ。もう1日早く来ればよかったのかもしれないが、まあこの村の現実を知ることができたのでよしとしよう。

翌日、朝食をとって外を見れば、さすが金曜日だけあってアブヤーネ村は大渋滞。あの小さな食堂の発展を心から祈る。全員あそこ行って飯を食いやがれ。昨日のタクシードライバーに電話をかけて迎えに来てもらって、カシャーンのバスターミナルからテヘラン行きのバスへ乗り込む。長かったイラン旅行も残すところ、後1日。