トルコ、シャンルウルファ。

翌朝、ディヤルバクルの郊外のバスターミナルから、シリアへの国境に近いシャンルウルファへと向かった。ここを拠点にしてネムルトダーゥを目指すことにする。ネムルトダーゥの麓にあるキャフタの街は、ディヤルバクルからの距離はそう遠くないものの、直通のバスを見つけることはできなかったのだ。複数のバス会社で聞き回った限りでは、ディヤルバクルから、キャフタの隣町のアディヤマンまで1日1便、しかも着くのは夜。着いたその日のうちにキャフタまで移動できる保証はないし、キャフタやアディヤマンは街としてはあまり魅力的ではないので、時間を無駄にはしたくない。地球の歩き方を調べてみると、シャンルウルファからネムルトダーゥへのツアーが出ているという。シャンルウルファは、ディヤルバクルから幹線道路で3時間の距離にあってバスは頻発、大きなモスクや旧市街、そして何より飯が旨いといわれているところだ。残された時間も僅かということもあり、とりあえずは最後の拠点をシャンルウルファに定めることにした。

シャンルウルファ郊外の長距離バスターミナルから、ローカルバスに乗り換えて街の中心部へ。すぐに見つけることができた「ホテルウール」は、宿の親父が親切で、共有のリビングルームの居心地のいい、典型的な素晴らしき安宿の一つだった。このような宿のある街には世界中のバックパッカーが集まって長居する。情報ノートには、近郊の街だけでなく、シリア国境の越え方や、イラクのクルド人自治区の行き方も詳しく書かれていた。クルド人はトルコだけでなく、イラン、シリア、そしてイラクの国境で分断された地域に住んでいる。自治権が与えられているのは、現在のところフセイン政権が崩壊した後のイラクのみ。シリアの不安定さが増すにつれ、自治権を得ようとするシリアのクルド人、それに呼応するトルコの急進的なクルド人と、それを恐れ独自の解決策を模索するトルコ側、さらに、それを挑発するシリア側。第一次世界大戦後に無理矢理に引かれた国境線が、自らの歪みに耐え切れずに人々の命を巻き込みながら音を建てて崩れていく。月並だが、早く平和が訪れることを祈ることしか僕にはできない。権力の綱引きや国境の線引きよりも、もっともっと大切なものがあるだろう、と。

宿から10分ほど歩けば、大通り沿いに旧市街独特の迷路が広がっていて、迷路の中には美しいモスクが点在している。路地裏に迷い込んでも、待ち構える子供は朴訥としているので、ディヤルバクルよりも断然歩きやすい。旧市街の迷路を貫く大通りを突き当たると、その先は賑やかなバザールとなっていて、それを抜ければ巨大なモスクが見えてくる。ここ一帯は緑の多い公園で、預言者アブラハムが生まれたのがこの地であるとされている。イスラム教においても、アブラハムは非常に重要な預言者の一人で、アブラハムを祀ったその巨大なモスクには、昼間から参拝者が絶えることはなかった。公園の中には池があり、アブラハムの伝説から聖なる魚とされているコイがうようよと泳いでいる。参拝客が投げた餌を、丸々と太った聖なる魚が我先にと奪い合う姿をひとしきり眺めたあとで、僕はまた旧市街歩きに繰り出した。

シャンルウルファは、食べ物が美味しいトルコの中でも、さらに食の街として知られている。路地裏の食堂は、店の前に椅子と机を並べていて、そこに座って夜風に当たりながら食べるのが気持ちいい。シャンルウルファ名物のラフマジュン。小麦の生地を焼いたピザのようなものに野菜を挟んで食べるのだが、ほどよい柔らかさのピザ生地と控えめな味付けがまた旨い。テーブルの上には野菜が山盛りになっていて、包丁とまな板が1人1セット置いてあり、勝手に刻んでラフマジュンの具にする。アナトリアの肥沃な大地で育った新鮮な野菜は食べ放題。もりもり食う。

路上で夕食を終えて宿に戻ると、リビングのソファで同じ宿に泊まっている旅行者が集まって皆ビールを片手に、わいわい話をしていた。僕も、宿の近所の売店でビールのボトルを買って、その輪に加わる。ドイツ、オーストリア、シンガポール、日本の陽気で多国籍な旅人達と、宿の主のムスタファ。旅の話から、自然と国際情勢へと話題が移り、クルド人の問題、アメリカ・イスラエル、イラン核開発など、盛りだくさんの熱い夜。議論をオカズに、個人的にはビール瓶2本を空けると、気が付けば深夜だった。

さて、翌日はネムルトダーゥへと旅立ちたいが、ネムルトダーゥへは公共交通機関は存在せず、ツアーで行くしなかい。この宿でもネムルトダーゥへのツアーを企画しているのだが、車の台数で値段が決まるので一人旅には酷である。一緒に飲んでいた仲間を誘ってみたところ、レンタカーで旅している2人が明日ネムルトダーゥに出発するとのこと。連れて行ってくれと頼んだら快諾いただいた。ドイツ人のおっさんのヘムルートと、彼とたまたま飛行機の席が隣だったというだけで一緒に旅をして来たエマの凸凹コンビに、僕が相乗りすることに。明日からお世話になります。よろしく!