シリアにて。

「どこの国が一番よかったか」みたいなことを聞かれたときには、ほぼ必ず「シリア」と答えている。旅に優劣をつけるのは主義に反するけれど、それでも本当に素晴らしい旅だった。

サラリーマンを辞めて自由業として最初の1年をなんとか乗り切った2008年の年末に一人でふらりと行ってきた。久しぶりにプレッシャーから解放されたというのもプラスに働いたと思う。エミレーツ航空で関空からドバイ経由でダマスカスに入り、ダマスカスからローカルバスでパルミラの遺跡へ、パルミラから小さなバスで(今、一番酷い状態だと言われる)ホムスへ向かい、そこから高速バスでアレッポへ、そしてアレッポから夜行列車でダマスカスへと戻った10日間の旅。

とにかく、ダマスカスやアレッポの旧市街をひたすら歩き倒した。特に、ダマスカスなんて、1万年前から街として存在しているようなレベルだから、積み上がった歴史はとてつもない。迷路のような細い路地を歩き回り、巨大なスークをさまよい、ハマムと呼ばれるスチームサウナで温まり、夕方になれば旧市街の真ん中にあるモスクが美しくライトアップされ、街中に響くアザーンを聞きながら、礼拝をぼんやりと眺めていた。

そして、なによりも、そこに住む人が最高だった。こんな小汚い東洋人でも優しく迎えてくれる。道を尋ねれば、わざわざ目的地まで案内してくれるし、チャイは奢ってくれるし、ヒッチハイクなんて余裕だ。そして、これを書いているちょうど今、シリアで殺されているのは、そんな人達だ。一部の富める国同士の利害の調整で、苦しめられるのはいつもそんな人達だ。

あのときの平和さからは、この状況は全く想像できない。独裁が長年続いていたから、見せ掛けの平和だったのだろうが、社会が壊れる瞬間って本当に呆気無いんだな。今はパソコンの前でニュースを見ながら溜息をつくことしかできないけれど、これ以上の血が流れないことを祈りながら、そのとき撮った写真を貼っておく。今思い出したが、このときに初めてGR DIGITAL IIを買って、ここで写真の楽しさを知ったんだった。本当に、この旅が今の自分の原点だったんだなあ、と。

キューバ編の途中だが、どうしてもこれを書いておきたかったので。一刻も早く、シリアの素敵な人達に平和が訪れますことを。