アムリトサル、その1。国境を越えて、黄金に輝く寺院で迫り来る腹痛。

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スーフィー・ナイトの翌朝、国境を越え、しばらく滞在したパキスタンを離れ、インドへと入国した。昔からインドとパキスタンの関係は非常に悪い。しかし、ラホールから20kmほど東にあるワガという国境の街は、元々一つだった両国の間で唯一人と物とが行き交う場所である。早朝に宿を発ち、リクシャに乗って1時間ほどで国境に着いた。パキスタンの出国手続きのためにイミグレに向かう。面倒臭そうに、しばらく待つよう言い放った職員は、僕らが待っている目の前でずっと暇そうにしている。彼は一向に仕事を始める気配がない。意味もわからず時が過ぎるのを待つ永遠のような30分が終わると、それまで薄暗かった建物の灯りが点き、職員がようやくその重い腰を上げた。お馴染みの停電でコンピュータが動かなかっただけのようだったが、それくらい何かとかならんものか。手続きが終わって建物を出て、インドへの国境を歩いて跨ぐ。さようならパキスタン、また会う日まで。イスラムの紋章をあしらったパキスタンのゲートの向こう側、マハトマ・ガンディーの肖像画が迎えてくれた。こんにちはインド。人生5度目の入国である。

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インド側のイミグレへは待機していたバスで連れて行かれた。荷物の検査とパスポートのチェック。パキスタンから来ると、インド人の働きぶりがまともに見えてしまうから、僕の頭はどうかしているようだ。両替を済ませ、タクシーでアムリトサルの中心部に辿り着いたのは昼の12時を過ぎた頃だった。

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国境の街・アムリトサルは、何と言ってもシク教最大の聖地であるゴールデン・テンプルである。シク教はイスラムの社会思想を取り入れたヒンドゥーの一派として知られているが、ステレオタイプなインド人のイメージであるぐるぐる巻のターバンはシク教徒のことだ。ゴールデン・テンプルでは、シク教に従い髪の毛を隠す布が求められる。寺の周りで売っている10ルピーのオレンジ色の布を買って頭に被る。靴を預けて裸足で回廊を渡り、立派な門をくぐって階段を降りると、黄金の寺院が眩しい日の光を跳ね返しながら湖のど真ん中に堂々と浮いているのだった。

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キラキラと輝く本堂の中では祈りのタブラが止まることなく奏でられ、湖に架かる橋には巡礼者の長蛇の列ができている。それを取り囲む建物には食堂があり、貧富や身分や出自や国籍や宗教までも区別することなく、無料の食事が振る舞われる。熱心な信者が沐浴して祈りを捧げる傍ら、笑顔で記念撮影をする家族連れや、暇そうに座り込んでいる若者など、聖地であるという緊張感はそこには無くて、みな思い思いにのんびり過ごしていた。

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湖沿いを散歩したり、涼しげな礼拝所で意識を失ったり(寝転ぶとさすがに怒られた)、昼過ぎからここでぷらぷらしていても飽きることはなかった。太陽の角度によって本堂は表情を変え、夕方から徐々に暗くなるにつれて輝きを増してくる。ただ、その一方で僕の腹は突然痛み出した。ラホールで食べたマトン・カライは美味しかったけど、物凄く油っこかったのだが、それか、そのせいか。何度もトイレに行き自分の限界を悟る。薄れ行く意識の中、なんとか宿まで歩いて辿り着き、持参した粉ポカリで水分を確保してそのままベッドに倒れ込んだ。アジアの旅のお約束。夜の黄金寺院が全く楽しめていないという悲劇。あんなに輝いていたというのに。

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