イラン、おまけ。

相対性理論については、別にここでの説明が不要な程に、いろいろなところ(主にネット界隈)で盛んに議論されているので、今更深く掘り下げるつもりは毛頭ない。個人的には、狙い過ぎな歌詞が、個人的にドンピシャであったのと(四角革命とか、バーモントキッスとかが、革命を目指した時代への捻じ曲げられた愛であるとか)、まあ、要するに単純に音楽として非常に品質が良いため、好んでよく聞いている。

ところで、カシャーンからアブヤーネへのタクシーの車中、お菓子をご馳走になりすっかり打ち解けたドライバーが日本の歌を聴きたいと言ってきた。そのとき手持ちのデジタルプレーヤーに入っていた日本の曲は、トクマルシューゴと、じゃがたらと、相対性理論の「シンクロニシティーン」。その中から1曲選べと言われれば、まあ、この曲しかないだろうということで、私のヘッドフォンを運転席の奴の頭に付けて「パラレルワールド」再生してみた。イントロのキックからノリノリのドライバー。

そして、

サビの「パラレルパラレルパラレルパラレルパラレルパラレルワ~」でスイッチが入り、歌い出す。ろくに英語すらしゃべれないイラン人タクシードライバーが歌う相対性理論の「パラレルワールド」。音楽が国境を越えた瞬間、しかもそれが相対性理論。シュールだ、しかし。しかし、車内は大盛り上がり。

次の日、アブヤーネの現実を知った後でホテルまで迎えに来てもらったときにも、「ハラレルハラレルハラレルワ~」と、繰り返しの回数を若干間違った状態で嬉しそうに歌っていた。おそらく彼は、「パラレルワールド」が日本人なら誰でも知っている有名曲だと思い込んでいることだろう。今後、彼が拾った客で日本人だと見れば、ドヤ顔で相対性理論らしきメロディーを歌い出すだろう。そんな胡散臭いドライバーがいれば、仕込んでしまったのは私です。相対性理論を知っている日本人、しかもイランに来るバックパッカーともなれば、ほとんど該当しないよねえ。

ドヤ顔で歌い出したものの、キョトンとする日本人を見て悲しむ彼の顔を想像すると、ちょっとだけ切ない気持になってくる。いやいや、実際、いい奴だったので、もし彼のタクシーに乗るヒトがいれば、優しく取り扱ってあげていただけることを切に願う。