2010年、イラン、ヤズド、その2。

そして、さらに、この街が特徴的なのは、ゾロアスター教の聖地であること。なにかとミステリアスな雰囲気の漂うゾロアスター教、日本ではほとんど接することのない宗教文化であるため、強烈に興味をそそられる。

ゾロアスター教は火を拝める宗教である。その、彼等が最も大事にする火が納められているゾロアスター教寺院アーテシュキャデは街の中心部にある。こじんまりした建物の中に、1500年前から淡々と燃え続けているという火が、ガラス窓を挟んで向こう側でまだまだ元気に存在していた。熱心な信者というよりは観光客風の人々ばかりで、皆が写真を撮りまくったりしていて、荘厳な感じは全く受けないのが若干残念なところ。

さらに、ヤズドの中心部からタクシーで30分程走って郊外に抜ければ、荒涼とした大地にそびえる「沈黙の塔」に至る。ゾロアスター教徒が、つい数十年前まで鳥葬を行っていた塔である。今ではすっかり見捨てられた様子で、もちろん外国人を中心としてツーリストはちらほら見受けられるのだが、観光地的な整備が全くなされていないのが素敵だ。入場料をとられる訳でもなく、歩道が整備されている訳でもなく、それはおそらく沈黙の塔が鳥葬に使われていたその時のまま。違うことと言えば、地元の悪餓鬼共がオフロードバイクを乗り回しているところ。当然のように両方の塔の上まで登り、野生の鳥が人の死体に群がった場所に立つ。

イランではイスラム教に比べれば明らかに大事にされていない様子のゾロアスター教ではあるが、それが逆に原始宗教ぶりが強調され、そのミステリアスな雰囲気はさらに深まるのである。

ところで、このイラン旅行もヤズドを離れれば残り2泊となる。広い国土を持つイラン、行きたいところはまだまだある。例えば、シーア派最高の聖地であるマシュハドは北東部に位置し、ヤズドから1日、帰国便が発つテヘランへも1日近くかかる。イスラム好きの私としては是非に行きたいところであったが、連れの体力も機嫌も限界に近い。その他にも、カスピ海沿いの街、アゼルバイジャンとの国境に近い街、トルコとの国境に近い街、行きたい街は山ほどあるが、どこも残り2泊を使って効率的に回れる場所ではない。

そこで、アブヤーネ村である。ヤズドからテヘランへ戻る途中にあるカシャーンという街から山奥へと走ったところにある小さな村。独特の民族衣装と敬虔なゾロアスター教への信仰と中世の息遣いが残る。「地球の歩き方」や「Lonely Planet」等のガイドブックの扱いは決して大きくはないものの、いかにも秘境という感じを受ける。旅では田舎に行けば行くほど楽しいことが、旅の経験値的にわかっているので、大きな期待を抱き、アブヤーネへと向かった。日が昇る前にSilk Road Hotelを出て、タクシーでヤズド駅へ。この旅で初の電車に乗り込み、まずはアブヤーネへの起点となるカシャーンへと向かう。

そして、この大きく且つ淡い期待をある意味見事に裏切ることとなるアブヤーネ、このイラン旅は僅か数日を残したところで急展開をみせる。